「茨城県国民保護訓練」への抗議声明

私たち戦時下の現在を考える講座は、11月18日付で以下のような抗議声明を、対象となる行政機関(茨城県知事および同県生活環境部防災・危機管理課、土浦市長および同市総務部危機管理室、つくばみらい市長および同市総務部安心安全課)あてに送付しました。

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「平成26年度茨城県国民保護共同図上訓練」への抗議声明

 

 本日11月18日、国と茨城県との共同で、土浦市つくばみらい市および茨城県庁にて実施される国民保護共同図上訓練に抗議します。この訓練は自衛隊・警察・消防・自治体職員などの各種公務員にとどまらず、企業や一般市民をも戦時協力へと向かわせ包摂するためのものです。私たちはこのような訓練を行うべきではないと考えます。

 

 県内と国の91団体、約300名を動員するとされるこの訓練は、「JR土浦駅及び土浦市民会館が爆破されるとともに、つくばエクスプレスみらい平駅が爆破され、多数の死傷者が発生する。その後、犯行グループは爆発物等を所持して両市内の施設にそれぞれ立てこもる。」*1と想定されています。しかしたとえば、みらい平駅は乗降客も決して多くはなく、周辺にも商業施設のさほど多くはない地域です。率直に言って県内の主要施設とも見なせず、このように静かな場所をなぜ事件の想定地点にしたのか理解できません。このような想定は利用客や周辺住民をいたずらに不安にさせるだけであり、危機意識を扇動していると言えるでしょう。国・自治体がこのような扇動を行うのは許されることではありません。

 

 2004年の国民保護法施行以来、茨城県内では過去7回もの図上ないし実動の国民保護訓練が実施されてきました*2。今回にかぎらず、訓練でうたわれている「国民保護」とは、テロあるいは戦時における、自衛隊の後方支援的な「国民」の「活用・動員」であって、言葉通りの「保護」ではありません。訓練の根拠となっている国民保護法は、住民や産業をいかに活用して戦時に対応するかを規定している法律であり、人々は国によって戦時に活用されるべき資源にすぎず、国の政策に反発したりしないよう管理すべき対象とされています。このような考え方、政策に私たちは強く反対します。私たち住民は国家や自治体に活用されたり管理されたりするような資源ではありません。

 

 国・政府は有事の可能性をなくすことにこそ内政・外交ともに専心すべきはずです。東海第2原発がテロ攻撃をうけた(2006年の県内訓練)、「放射性物質の拡散を伴うテロ」(2009年の同訓練。テロの名の下に隠れて原発事故シミュレーションを行なったようにも見える)*3などと想定するかわりに、そのような危険きわまりない原発廃炉と、核燃料類のより安全な保管へと政策を転換すべきであるという考えは、とくに福島原発事故以降は広く認知されています。それだけでなく、今回想定されたシナリオ*4はむしろテロを呼び込むかのような振る舞いとなっていて、言葉を失います。特定の国を想定して敵視し、不信を抱かせるような内容ですらあって、そのようなことは厳に慎むべきはずのことがらであり、「国民」に対してのみならず他の諸国に対しても相互不信を煽り立てる、言葉の本来の意味での「国民保護」とは全く無縁のものです。図上であっても今回のような訓練は事実上の戦争訓練であり、対外的にも日本は国内各地で戦争訓練を始めたものと映るでしょう*5。これは危険な挑発であり、訓練ではない本物の戦争への道を開くことにもなりうる行為です。そのような訓練は断じて行うべきではありません。

 

 私たちは今日行われる国民保護共同図上訓練に反対します。このような訓練は実施されてはなりません。国は訓練を中止して下さい。茨城県土浦市つくばみらい市はこのような訓練に参加しないよう強く求めます。


2014年11月18日
戦時下の現在を考える講座

*1:茨城県生活環境部 防災・危機管理局 防災・危機管理課,「平成26年度茨城県国民保護共同図上訓練について」,p.1:http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/kikikanri/26kokuminnhogokunren.pdf. 参加組織名は同文書p.7に列記.つくば市にあまたある研究所のうち、宇宙航空研究開発機構JAXA)が唯一参加するのは面白い.なぜか?

*2:茨城県防災・危機管理課のHP上の「国民保護対策」をクリックすると、過去の訓練について確認できる:http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/kikikanri/

*3:「今回の訓練は、初めて放射性物質の拡散を伴うテロ』という想定の下…」などと曖昧な表現がされている:http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/kikikanri/hogo/kunren/h21kunrenkekka.htm

*4:「甲国(国際的なテロ組織『α』への支援の疑惑がある)に対し、乙国及びその友好国(日本も含まれる)は厳しい経済制裁を行なってきた。乙国の大規模集客施設で、同時多発テロが発生。テロ組織『α』は、犯行声明とともに、甲国に経済制裁を継続している国を批判。その後、国際的なテロ組織『α』によると思われるテロが次々と…」云々云々。注1にリンクした文書のp.6を参照のこと。

*5:今年度の全国での国民保護共同訓練実施予定については、同文書のp.8に一覧がある。ぜんぶで13県。